信頼こそ
ある人は言う。
「幼いころはそれほど裕福ではなかったから、とにかくお金を稼ぎたかった」
彼は努力と自己研鑽を重ね、高い収入を得られるプロフェッショナル職に就く。そして次にこう言った。
「お金だけが全てではないと感じた。自分が思うように生きていくためには地位や名誉が必要だ」
彼は、稼いだお金でさらに自己投資を行い、人脈を築き、時に腹の煮える思いをし、信念を曲げて、組織に従い、高い役職を得た。そしてこう言った。
「組織でトップにまでなり、周囲から関心を持たれ、思ったときにお金や地位を使って新しいことができる。これは楽しい。でも何か足りない」
彼は続けてこう言った。
「考えた結果、私は社会の一員であり、今までは社会の中で「自分が生きやすいためにする努力」を重ねてきた。しかし、それは必ずしも幸せなことではない。結局は社会の中で本当に期待される価値は「周囲との共存」だからだ。自分の生きやすさだけを追求したライフスタイルは信念がなく、誰にも信用されず、金と地位と名誉といった世間体ばかりを気にする人間を惹きつけてしまう。自分は信頼されているのかもわからないし、周囲の人間も信頼することができない」
彼は物寂しい表情でさらに続けた。
「人から見たら私は幸せ者に見えるかもしれない。自分も今までの努力や成果には誇りを持っている。でも最後に欲しいのお金や地位や名誉ではなく、人からの「信頼」であり、それこそが生きた証になるのだと思う」
それを聞いた私は彼がマズローの欲求階層説を実社会の、誰もが存在する環境で体現しているかのように感じた。